Day 1 はこちらから
Day 2 はこちらから
Day3
最終日。突き抜ける青。今日も快晴だ。すばらしい。おはよう。
思えば一昨年、2013年のラビリンスでは大型台風がまさかの苗場を直撃。3日目でラビリンスとしては初の中止になった。皆2日間楽しんでた分、酒とテンションも上がりきってたので 「大丈夫。なんとかなるよ!何とか乗り切れる!」と思って寝たが、ぜ~んぜん大丈夫じゃなかった。
4時ごろからシトシト雨が豪雨と強風になり、あまりの強風にテントが横倒しになった。バキバキ!!と言う音にフっと目が覚めた自分。あれ?なんだ?おかしい…ぞ…。テントが目と鼻の先にある。俺は今どんな格好で寝てるんだ?端っこ?…そうじゃない、違う。テントのポールが壊れたんだ!?その瞬間一気に脳が活性化。慌てて耳を澄ます。
ゴーゴーと言う轟音と悲鳴ともつかないノイズ…。なんだ?何が外で…。3日目の音が始まったのか?でもまだ6時だ。
おそるおそるひしゃげたテントを這い、そっとジッパーを開けると大豪雨と強風で前が霞んで見えない。そしてあんなに密集してたテントが消えている…。まさか!?と思い嵐の中飛び出し、一番密集している他のテントサイトを覗くと…泥沼と化した地表、なぎ倒されたテント郡、飛ばされていく衣服、泣き叫び、ぐちゃぐちゃになりながらもタープやテントをしまう数千の人々が。。。
まさに地獄絵図。
突然、苗場のテントサイトのスピーカーから避難警報が流れ始めた 「避難警報が発動されました。速やかに非難して下さい。繰り返します。苗場全体で避難警報が…。」
自分も慌ててびしょ濡れでテントに戻り、仲間を起こし!起こし!起こ…そう、かと思ったが、皆気づかず寝てる。そしてそんな自分も疲れ+酒の残りか、現実離れしすぎた光景を見たからか、フラフラとテントの脇に置いてあった金づちを手にし、なぜかテントのペグを打ち直し始めた。
未だになんでそうしたのか分からない…。
これが壊れたテント。この状態でなんとかしようとしてたのがすごい。
とにかく何とか直そうと嵐の中ペグを打ち続けていたらラビリンスの運営ではなく、苗場のテント事務局のおっちゃんらが車で乗り込んできた、「にげてくださーい!避難警報です!にげてくださーいっ!」 屈強な雨がっぱと雨靴に身を包んだおっちゃん達が慌てひしめく人たちを誘導してる。あー、お仕事、大変だなあと。しみじみ。ふと、少し離れた所でペグを打ってる自分と目が合う。走ってくるおっちゃん。
あー、おつかれさまです。と言おうとした瞬間、胸ぐらをガっと捕まれ
「逃げろって言ってるだろがっ!!死ぬぞっ!!」
…そうですよね。
そして寝てる仲間をたたき起こし、皆、寝起きフラフラの中、嵐の中、逃げ出した記憶がフラッシュバック。
よくよく考えたら…。あの状態の中、寝てた仲間が一番すごい。2013年ラビリンスはこうして終わってしまったのだ。
さて、話しを戻そう。
そんな記憶も吹き飛ばすくらいの快晴だ。2015 ラビリンス。よし遊ぶぞ。3日目は初日に素晴らしいプレイを見せてくれた Sebastian Mullaert の単独DJから始まり、初来日の Patrick Russell そしてラビリンスではもはや切っても切れない、レジデント Donato Dozzy が Neelと共に、Voices From The Lakeとして4時間セットを披露。テントからイスを持ち出しメインフロアの後ろにスタンバイ。大自然をVJに最高の音質とアーティストを体感する。贅沢過ぎるリスニング環境だ。
しかし今日も遊ぶぞ。と言ったが正直3日目はほとんど聞いていないのでレポートができない。
理由は筋肉痛の痛みでイスから動けなかった事もそうだが、もっと根本的な。ラビリンスのこじらせ病。そう、こじらせて意地になってしまったのだ 「今日全てを聞いてしまったらおしまいなんだ…。帰るんだ。」 と。だから最後まで聞きたくないと。意地になった。仲間にスピーカ前に行こうと言われ一度は行ったものの、何か急にたまらなくなり、テントに戻ると言い、イスをたたみ、早々に一人戻ってしまった。
皆で過ごした3日間、たった3日間。されど3日間、ひたすら笑い、飲み、遊び、音の粒子に触れ、戯れた3日間。終わってしまう。嫌だ。嫌だ。もっと居たい。と。逆に音から逃げるようにテントに戻った。たまらなくなった。
ラビリンスの持つ魅力であり魔力でもあるこの 「もっと居たい」 と思うパワーは何なのだろうか。実際ラビリンスでは帰りに泣く人、「元気で」と握手した後もずっと立ち話する人、お別れのハグをしたまま離れない人もいる。皆この非日常が一瞬で終わるのが嫌なのだ。
テントに早々に戻った理由のもう一つとして、皆が遊んで帰ってきたら暖かいスープやご馳走で最後を迎えたいとも思っていた。その為、遠くから聞こえる歓声と音をBGMにスープやご馳走を静かに作って過ごした。本当に1人きりで。黙々と。
遠くから聞こえる歓声を聞きながら、静かに玉ねぎを剥いたり、肉を炒めたりしてる瞬間、なぜか今までの8年間のラビリンスの中で最も濃く長く静かで濃密な時間を過ごしている気がした。あ~、こういう楽しみ方もあるのか。と思ったのは新しい発見だった。来年はどうやって過ごそうか、さっきまで終わってしまうのが嫌だと思ってたのに、もう今はそんな事を考えてしまう。
『ラビリンス』
大切な人が集まる場所、大切な音に出会える場所。
さて、もうすぐみんなが帰って来る。
今日は何を話そうか、皆は何を話してくれるのか、明日も明後日も時間はただ真っ直ぐ進む。進むしかない。
だから今、こうやって交わって集まった瞬間が本当に愛おしく、本当に大事な大切な仲間に出会えた事に感謝しか生まれない。
…あぁ、音が止まった。
止まってしまった。山の向こうから響くこだま。大歓声。大歓声。鳴り止まない。鳴り止まない。ずっと鳴り止まない。
何分経過しただろう。いや何十分。時計はもはや朝から見ていない。時間の感覚が分からない。
ゆっくりと静かにフェードアウトしていく歓声。
静寂。山の静寂。虫の鳴き声。もう何も聞こえない。
あぁ、本当に終わったんだな。今年もありがとう。
静かに心の中でお辞儀をする。
辺りはいつの間にか暗く。テントにはポツポツと明かりが宿り、そこへ帰ってきた人たちの声が聞こえてくる。
「ただいまー」
「おかえり~」
「どこに居たんだよ~」
「あ~やばかったーー。」
「今年も最高でした~」
「やだよー、帰りたく…」
「それ言うなよ~」
「あはは、それでさ~」
「えーーマジで!あいつそんなに!?」
「ウケる…笑 やめて腹痛い…笑」
「お腹減った~」
そして遠くから懐中電灯の明かりがまっすぐこちらのテントに近づいてくる。
あー、よし、帰ってきたな…。
ゆっくりと酒を注ぎ、食器を取り出し、ご馳走を添えていく。
ザッとテントが開かれる
「ただいまー。」
「あ~やばかったーー。」
「今年も最高でした~」
「やだよー、帰りたく…」
「それ言うなよ~」
「あはは、それでさ~」
「おかえり、夕食用意してるよ。今日も乾杯と行こうか。」
daigo yoshioka